ぜいたくな病
私は最近、テレビに関してとても不満がある。
幽霊話などの怪談を扱う番組がほとんど無くなってしまったことだ。
私が十代の頃は、夏は毎日のように、冬でも時折心霊体験の再現ドラマや、心霊写真を紹介する番組があったように思う。
今はインターネットの動画サイトで恐怖映像を探したり、体験談を読んだりしているので、物足りないことはないが、やはりさみしい。
私には霊感は無い。三十七年の人生の中で、その類(たぐい)の怖い思いをしたことがない。
現実の心霊スポットに行ったこともない。たいてい山奥の国道や、廃墟となった建物のような、物理的にも危険がいっぱいの場所に、いわくがあったりするからだ。それになにより、本当に見てしまったり、取り憑かれたら怖い。
テレビの中の幽霊は所詮他人事だから、怖いけど楽しめる。リアルの痛い思いは勘弁してほしい。
ジェットコースターのような乗り物は、肉体的に衝撃が来るので苦手だ。
しかし世の中には、どう考えても罰としか思えないバンジージャンプを、わざわざお金を払って体験したがる人も多くいる。
そもそもなぜ人間は怖い思いを好むのだろうか。
怪談やおとぎ話というものは、始まりは教訓を含めた伝承だったと思う。
代表的な怪談『雪女』は、雪山に入った木こりの父子(おやこ)が雪女に出会ってしまい、父は死に、息子は後日人間に化けた雪女と結婚。しかし結局去られてしまう話。
雪山は危ないということ以外、何をどう気を付けたらいいかさっぱりわからない。
だがこの怪談を聞く多くの人は、雪山にはいないのではないか。つまり私と同じ他人事だ。
人間は心身ともに適度なストレスが無いと、免疫力や体のバランスが崩れ、うつ病や自律神経失調症などに陥るという。
古代から近代まで、生きることは大変だった。
現代でも一部の国の人々は、死と隣り合わせの生活を送っている。
しかし日本で暮らす私は命の危機にさらされることはまず無い。
怪談もジェットコースターも、死の恐怖の疑似体験かもしれない。
それは退屈な日常を打破する人生のスパイスであり「本当の自分の生活はこんなにも安全で恵まれているんだ」という、安堵の気持ちで癒されるため。
ストレスとリラックスを同時に味わう、欲張りな私にぴったりの娯楽が怪談なのだ。
-fin-
2014.01
『人生のスパイス』をテーマに書いたエッセイです。