ある夏の移り気
高校2年の夏休み。
出掛けの晴れ間が一転し、雨になったが、気象予報士の資格を持つ俊也(としや)には、予測の範囲内だ。
資格があれば食いっぱぐれないから、と幼い頃から親に言われ、これまでにいくつもの資格試験を受けてきた。
今日受ける試験の、会場へ向かうバスの中で、送られた書類を改めて見た。
『随行(ずいこう)資格試験』
と、謎の名称が書かれている。
費用は無料。指定の日時に講習を受けるだけで資格がもらえるという、代物だ。
ネットで探した資格だが、その詳しい内容はわからず、ちゃんとしたものかどうかは、正直怪しい。けれどもタダだし、変な物だったとしても、話の種になるからいいやと思い応募した。
窓ガラスを打つ雨が増々激しくなる。
ニュース時事能力検定一級を持つ俊也は、一週間前のゲリラ豪雨で、この近辺の山沿いの道で、路線バスが濁流に流されたという報道を思い出した。運転手は自力で逃げたものの、乗客が一人、今もバスごと行方不明のはずだ。
ふと車内を見ると、乗客は俊也の他は一人。物憂げな眼差しで外を眺める、高校生らしき黒髪の美少女だけだった。
〈盲亀浮木(もうきふぼく)……〉
漢字検定を持つ俊也は、奇跡的な出会いを意味する四字熟語を心に浮かべた。
ふいに、少女が前方を見て怪訝な顔をした。つられて俊也も視線の先を追った。
運転手の姿が見えない。
倒れているのかと駆け寄ったが、誰もいない。
バスはスピードを出したまま、大雨の中を疾走している。
カートドライバーのジュニアライセンスを持つ俊也は、思わずバスのハンドルを切り、ブレーキを踏んだ。バスはぬかるみを横滑りし、俊也と少女は車内で回転した。
「圏外って出てる。助け呼べない」
少女の呟きで、俊也は意識を取り戻した。バスは崖下に落ちたようだ。
痛む体をおし、俊也は運転席の無線のマイクのスイッチを押した。が、壊れているようで何の反応もない。
そこでアマチュア無線の資格を持つ俊也は、常日頃持ち歩いているマイ無線機で、呼びかけてみた。すると仲間と連絡が取れ、救助要請を出してくれることになった。
「連絡とれたんだ……」と、少女が言った。
「明日までには助けが来ると思うよ」 そう言う俊也の胸に少女が縋り付いて来た。
恋の試験が始まる……と思いきや、
「一週間早ければよかったのに……」
少女から死臭が漂う。
彼女と随行する資格は無くていいから、帰ったら霊媒師の資格を取りに行こうと、俊也は心に決めた。
-fin-
2013.08
『試験』
をテーマに書いたフィクションです。