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記憶の檻(おり)

あなたには物心ついた頃から、殆どの乗り物で酔うクセがありました。特に、長距離バスの中で、常にぐったりしている状態が、あなたの人生でした。

2014年は、人に誘われて、よく旅行に行った年でしたね。奈良県から、苦手なバスで色んな所へ出掛けました。

1月は母親と一泊の下呂温泉ツアー。

2月は友達と日帰り淡路島ツアー。

38歳になっても、変わらず酔うことに、うんざりしていましたね。

10歳ごろ、酔い止めの薬を飲んだけど、飲みなれない薬を飲んで、余計に酔い、それ以降は飲まなくなりました。

でも、一人でディズニーランドに行きたくなった6月。

往復の夜行バスに乗る時、約30年ぶりに飲んだ薬がてき面に効き、楽しく過ごせましたね。

で、調子に乗って、9月と11月にも一人でディズニーに行ったのですね。

ネットオークションでディズニーの株主優待券を落札し、6400円の入場料を5800円に抑える、という知恵も身に着けました。

9月は、母親と和歌山県の熊野(くまの)へ一泊のバスツアーへ行きました。曲がりくねった山道で他の乗客が酔いを訴える中、あなたはケロッとしていました。

酔わない旅行がどれほど素晴らしいか、人生で初めて知ったでしょう。

植物は、新芽は柔らかく瑞々しいですが、次第に固くなります。そして年月をかけ、生い茂り、蔓延(はびこ)り、あっという間に向こう側を見えなくします。

人間もそうです。長く生きたという無意識の自負が、思考を狭(せば)め意固地にさせます。合わなかった薬を一度飲んだきり、他の薬も駄目だと決めつけ、選択から排除していたのがそれです。

乗り物酔いのクセが、どれほど精神の自由を奪っていたかもわかります。

酔うのは、三半規管(さんはんきかん)という器官が先天的に弱いために起こる、仕方のない体調不良です。なのに、自力で治せない自分を責めてもいましたね。

薬は、出来ないことを補う、ただの『道具』です。靴やナイフと同じです。完ぺきな人はいません。薬を飲むことは『負け』ではないのです。

単に遊びたいがために行動範囲を広げたことが、自分の常識の柵(しがらみ)を越えることにも繋がってよかったです。

その分、少なかった貯金が、更に悲惨になっていることも忘れずに。来年は計画性を持って行動してください。

 

-fin-

2015.01

『手紙形式で今年の自分をほめる』をテーマに書いたエッセイです。

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