苦悩の螺旋
いつからだろう。
シーズンごとに送られてくる、通販のファッションアイテムのカタログを見て、私がわくわくしていることに気付いたのは。
カタログを見ながら、ああ、冬が来るんだなあ、と嬉しく感じる。
眺めるのはスカートの写真だ。
私はスカートが好きだ。膝より短いものは、三十四という年齢に関係なくはく勇気はないが、膝下丈のスカートにヒールのある靴で、堅い道をカツカツと足音を立てながら闊歩すると嬉しくなる。
けれど私はめったにスカートをはかない。いや、はけないのだ。
なぜすね毛というものがこの世にあるのだろう。
五・六年前まで、世の女性はみんな私と同じように、常にすね毛を剃っているのだと思っていた。しかし人と話をするうちに、元々あまり生えない人も多くいることがわかった。
そういう彼女たちには、決して私の悩みは理解できまい。
すね毛ほどではないが、私は腕の毛も濃い。
夏場、腕毛がこれ以上ないくらい伸びきって風にそよぐと、皮膚からのその刺激に、私の脳は「あ、虫が止まった」と勘違いして、思わず叩いてしまうことがある。私たち毛深族(けぶかぞく)は、それをひと夏に何度もやる。
腕の毛はまだ細いので一度剃れば済む話だが、剛毛のすね毛はそうもいかない。一度剃ったら、その翌々日には目立つくらい伸びている。
夏場にスカートを楽しめるのは一日限定と言っても過言ではない。
でも冬は多少伸びていても、厚手のタイツをはけるので、一度の剃りで二週間はもつのだ。
二年ぐらい前からは剃るのを止め、ワックス脱毛という方法に替えた。
自宅でも出来るが、私は個人経営のエステ店でやってもらっている。
糊のようなものをすねに塗り、上からシートを貼って一気に剥がし、密集している毛を抜く。
やる前は痛そうだと思ったが、実際は想像通りすごく痛い。
それでも、夏に一カ月もつるつるのすねがキープ出来るので、三・四回はやった。
だがこの方法には、痛み以外にも面倒な点がある。
毛の成長期に脱毛すると、またすぐ生えてきてしまうため、持続効果が薄れる。三カ月以上伸ばしっぱなしにして、施術を受けなければいけないのだ。
生えかけたら伸びきるまで、スカートはお預け。
一日限定のためにまめに剃るか、ひと月のストレスをなくすためにワンシーズンを犠牲にするか。今私はこの悩みの真っただ中にいる。
そしてこんなにも嫌がっているのに、未だに生えてくるすね毛のなんと強情なこと。
この力強いDNAには足を長くするとかの分野で役に立ってほしかった。
先週春物のカタログが届いた。細くて綺麗なモデルさんは、生足にサンダルで楽しげに微笑んでいる。
春が来る前に言うのもなんだが、今年も冬が待ち遠しい。
fin-
2010.03
『冬を感じる時』をテーマに書いたエッセイです。