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異種族交流記

子供の頃は常に悩んでいた。

37歳の現在も悩みはあるが、知識や経験が増え、昔より迷いは少なくなった。

 

子供の頃の悩みの半分は、虫に関することだった気がする。今より土をいじったり、草花を採って遊んだり、虫に接する機会が多かったせいだろう。葉っぱを触った拍子にイモムシを揉んでいたり、アブにつきまとわれたり。

佐賀県の祖母の家に行ったときは、茶箪笥の蜂蜜にアリの行列が集(たか)っているのを見つけ、絶叫したこともある。

アリといえば小学2年の頃、巣から次々出て来るアリを潰し続ける遊びをしていた。「アリを殺すと雨が降るよ」と、誰かに言われたので、それが本当かどうかを確かめるためだ。結果、雨は降らなかった。

 

小3の時、父の転勤で神奈川県から、奈良県の大和郡山市(やまとこおりやまし)に引っ越した。ここは金魚の養殖で有名な町で、引っ越し先の団地の近くにはたくさんの金魚池があった。金魚池ではボウフラがよく育つ。夏になると五階の部屋の天井一面に、蚊がびっしりと張り付き、私と妹は毎日悲鳴を上げていた。網戸を四六時中閉めていれば、いくらか侵入を防げるようにはなったが、ここにずっと住まなければいけないのかと、絶望的な気分になったことを覚えている。

 

私が小6で妹が小3の時のこと。

秋口の昼過ぎ、私と母と妹の3人で家にいた時、居間の網戸のふちに何やら動くものがあった。近づいてよく見ると、全長十センチはあるカマキリが1匹、部屋を覗き込んでいた。

三人ともこんなに大きなカマキリに出会ったのは初めてだったので、網戸越しに接近して眺めていた。そのうち、何を思ったか母が網戸を開けた。もっとよく見ようと思ったのだろう。遮(さえぎ)る物のない状態でカマキリと見つめ合い、私は少し身構えたが、カマキリは動かない。

その時、ホッとした私の心を読み取ったかのように、カマキリが私の向う脛(むこうずね)にぴょんと飛び乗った。恐怖のあまり私は泣き叫び、部屋中を走り回って、足をブンブン振り払ったが、カマキリはしっかりとしがみついている。

母が新聞紙で払って外に追い出したが、あれほど泣いたのも久しぶりだった。

 

未知の脅威も過ぎ去ってしまえば可愛い思い出だ。

しかし襲われて大泣きする私を見て、母と妹が腹を抱えて笑っていた恨みを私は一生忘れはしない。

 

-fin-

2013.07

『涙』をテーマに書いたエッセイです。

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