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リメンバー308

サンマルハチ

私は子供の頃、映画『インディ・ジョーンズ』を見て、主人公の考古学者が繰り広げる大冒険に憧れた。しかし出不精で怖がりの私に、冒険のチャンスなど訪れるはずもなかった。

 

私の住む奈良県と大阪府の間には生駒山がある。

県を繋ぐ最短ルートは国道308号線で、県境の山道は『暗峠(くらがりとうげ)』と呼ばれている。国道だが道幅の狭い場所と、急勾配のある道として有名らしい。様々なサイトでハイキングコースとしても紹介されている。

4月24日、母と二人でここへ行った。

昼12時過ぎ。近鉄南生駒(みなみいこま)駅でハイキングマップを貰い、308号を西へ歩いた。

坂道に並ぶ家々が途切れ、車が走る道路と、自転車を漕ぐ女性が進む道路とに別れた。二つの道はどこかで繋がるのだと思い自転車が行った道を行った。

『向山(むかいやま)公園(こうえん)』という体育館のある施設へ行き止まったが、フェンスの脇から伸びる、舗装されていない狭い坂道を見つけ、上った。

雑草が伸び、小さな虫が飛び交う山道。マップにある石仏(せきぶつ)はまだかなあ、と呑気に喋っていた。

 

何十分も生い茂った草木のトンネルの中を歩き続けた。石仏どころか道が見えなくなり、疑念が湧いた。そして、踏みしめた道がふんわり柔らかかった時、道を間違えたと確信した。明らかに長い間、人が通っていない道だ。

戻るべきか、進むべきか、立ち止まって話合った。まだ午後二時前。私たちは進む方に賭け、竹林を歩いた。

近場への気楽なハイキングのつもりだったので、父に何も言わずに出かけてしまったことを後悔した。

せめて、

『六十八歳と三十八歳の母娘(ははこ)、生駒山で遭難!!』

というニュースにならないよう、慎重に歩いた。

十分後、ようやく人家を見つけ、私達は安堵した。

 

畑に出ていた七十代の男性に、山で迷っていたことを話すと、家のすぐ裏が国道だと教えてくれた。

男性によると、昔は林業が栄えていたが、最近は山に入る人間が少なくなり、道が消えているのだ、という。

来るまでに見かけた、作業小屋や重機や石畳は、その名残だったようだ。

 

男性に言われた通り、国道を通り、念願の県境にたどり着くことが出来た。

無事家に帰り、一日を振り返った。

登山家が、命がけの冒険を止めない理由が少しだけ理解できた気がする。

先が見えない危険と、生還した時の解放感。そして平凡な生活の落差が、何にも代えがたい快感だからだ。

 

期せずして冒険をした308号線。私はこの数字を一生忘れないだろう。

 

-fin-

2014.08

『なりたかったもの・あこがれたもの』をテーマに書いたエッセイです。

いこまやま

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